前回は「私法の一般法」である民法の構成についてお話しました。
私人同士の関係・・・つまり、私たちが生活していく上でのルールを定めた法律が民法です。
民法の中でイメージしやすいのは、財産法に関する分野ですね。
どうやって物を購入するか、とか所有権はどうやったら手に入るのか、とか生活する上でとても身近なルールです。
しかし、誰でも一人で物を購入するという取引ができる訳ではありません。
今回は「取引をする」ための権利能力・意思能力・行為能力という3つの法的能力について解説していきます。
権利能力とは
私法上の権利・義務の主体となることのできる能力のことを「権利能力」といいます。
権利能力は自然人(人間のことです)と法人に認められています。
コンビニで缶コーヒーを購入するときには「缶コーヒーを受け取る権利」と「代金を支払う義務」が発生しますよね。
この権利や義務を持つことのできる能力・資格が権利能力というわけですね。
権利能力は出生から死亡まで
民法3条1項
私権の享有は、出生に始まる。
権利能力は、人が生まれた時に始まり、死亡した時点で終了します。
したがって、まだ母親のお腹の中にいる状態のとき、つまり胎児である間は原則として権利能力は認められません。
しかし、例外として以下の3つのケースの場合には胎児にも権利能力が認められています。
- 不法行為による損害賠償請求権(721条)
- 相続(886条)
- 遺贈(965条)
これらのケースに該当するときは、胎児が生きて生まれた場合には胎児であった間に遡って権利能力が認められることになります。(停止条件説)
参考:胎児の法定代理人
胎児には権利能力がないため、胎児の段階では母親であっても胎児の法定代理人になることはできません。(大判昭和7年10月6日)
意思能力とは
自分の行為の結果を弁識できる能力のことを意思能力といいます。
「弁識」というと難しく感じますが、つまりは自分の行動の結果を予測・判断できる精神能力のことです。
だいたい7歳から10歳くらいの精神能力のことだとされています。
法律関係を個人の自由な意思で行うとする私的自治の原則のもとでは、この意思能力が非常に大切です。
意思能力がなければ「自由な意思」があるとは言えないのですね。
そのため、意思能力がない人が行った法律行為は無効とされています。
例えば、一般的には泥酔者には意思能力がないと考えられていますので、泥酔中に高額な宝石を購入する契約をしても、この契約は無効=購入する必要はありません。
しかし、いざ契約が無効であると主張しようとしても、行為当時に意思能力がなかったことを証明するのは大変です。
それでは意思能力のない人(意思無能力者)の保護が充分にできませんので、民法では制限行為能力者という制度を用意しています。
行為能力・制限行為能力者とは
単独で確定的に有効な法律行為をできる能力を行為能力といい、この行為能力を制限されている人のことを制限行為能力者と呼びます。
制限行為能力者は、その制限の種類によって、
- 未成年者
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
の4つが規定されています。
あらかじめ保護すべき人を規定しておくことで、意思無能力の証明をせずとも保護をしようとしている制度です。
この制限行為能力者については非常に大切なポイントですので、別記事で解説しようと思います。
意思無能力者の法律行為は無効ですが、行為能力が欠けている人の法律行為については取り消すことができるということを覚えておいてください。
まとめ
毎日生活して行く中では当たり前にお店で欲しいものを買っていますが、買い物ができるのは「権利能力」「意思能力」「行為能力」があるからです。
いつこれらの能力が認められるかというと、以下の通りです。
権利能力 | 0歳〜 |
意思能力 | 7〜10歳 |
行為能力 | 20歳〜 |
生きている間は権利能力が欠ける事はありませんが、
意思能力が欠ければ契約は無効ですし、
行為能力が欠ければ取り消すことのできる契約となります。
普段は気にすることもないこれらの能力ですが、これから民法を勉強して行く中で前提となる知識です。
まずはそれぞれがどんな内容の能力なのかを理解しておきましょう。