民法を勉強している人であれば「権利の濫用は許されない」という考え方についてご存知だと思います。
民法1条3項に出てくる決まりですよね。
今回はこの「権利濫用」について判示した超重要判例である宇奈月温泉事件について解説していきます。
どんな事例でどんな結論になったのか、しっかり覚えていきましょう。
宇奈月温泉事件で一体なにが起こったの?
あなたは温泉は好きですか?
自宅のお風呂とは違う広い湯船につかって温まると疲れがどこかに飛んでいっちゃいますよね。
湯治という言葉があるように、水道水とは違う温泉の成分でより疲れや肩こりなんかに効くのかもしれません。
さて、宇奈月温泉事件もその名の通りある温泉で起こった事件です。
温泉であるからには、どこからから管を通してお湯を引いてこなければいけません。
このお湯を引く管のことを「引湯管」と言います。
引湯管が土地の一部を通っていた
宇奈月温泉ではかなりのお金をつかって、7.5kmにも及ぶ引湯管をひいていました。
引湯菅が通る土地を全て買い取るわけにもいきませんので、それぞれの土地に引湯菅を通すための利用権を設定しています。
しかし、一部利用権を設定できていない土地があり、そこに目をつけた人がいました。
ネコさんは土地を買い取り、かなり法外な値段で宇奈月温泉に買い取るように要求しましたが、宇奈月温泉側はそれを拒否しました。
1審・2審では宇奈月温泉側の勝訴でしたが、納得できないネコさんは大審院に上告したのです。
最高裁の結論
結果は上告棄却・・・つまり、ネコさんの主張は認められず、宇奈月温泉の勝ちです。(大判昭和10年10月5日)
この裁判の争点はなんだったのでしょうか。
正当な権利行使にみえても許されない場合がある
判旨は古い書き方になっていて非常に読みづらいので、簡単に言い直すと、
所有権の侵害による損失が言うに足らず、侵害の除去が著しく困難で莫大な費用がかかる場合において、
不当な利益の獲得を目的として侵害の除去を主張するのは所有権の目的に反し、保護の範囲を逸脱しているため権利の濫用に他ならない。
ネコさんは引湯管が通っている土地の所有者ですので、所有権に基づいた妨害排除請求をすることができるはずです。
しかし、この事例においては利用価値のない土地を宇奈月温泉に高額で売りつけ、不当にお金を手に入れることを目的として土地を購入しています。
本来土地の値段は当時の価格で30円ほどの価値しかないにも関わらず、2万円以上での買取を要求していたんですね。
他にも、
- 引湯管をネコさんの土地から撤去し、他の土地を迂回させる工事をするには高額な費用と日数がかかる
- 迂回工事をしている間に温泉経営が破壊される
などの理由もあり、このような事情の下で妨害排除請求をすることは権利の濫用であるとされました。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
この宇奈月温泉事件(大判昭和10年10月5日)が直接的に試験で問われる可能性は低いと考えられますが「権利の濫用」を理解するために必須の判例です。
所有権は非常に強力な権利ですが、いつでもどんな時でも行使できるわけではないことを覚えておきましょう。
では、今回は以上です。